にんにくを好んで食べる人もにんにくを食べない人も誰もが知っているのが、ブラム・ストーカーの小説ドラキュラではないでしょうか。若い女性の首筋にキスをすべく近寄っては生き血を吸う伯爵のシーンは、映画やテレビでも良く知られています。
そのヒロインの部屋の窓辺に、にんにくが置いてあるとドラキュラは近寄ることができませんでした。にんにくは、古くから邪悪なものから身を守るおまじないの役目をしていたのです。
にんにくによる「おまじない」
ドラキュラとはルーマニア語で「ドラゴンの子(悪魔の使いの子)」と言う意味だそうです。なぜルーマニア語なのかというと、ルーマニア北部のカルパティア山脈にモデルがいるからです。
ドラキュラの小説のルーツともいえるこの言い伝えの中に、
亡くなったわが子の口の中ににんにくを詰めた
とありますが、それは亡くなった子供の魂を災いから守るためとともに、吸血鬼が子どもの遺体に乗り移ってさらなる悪事を働くのを防ぐためだったそうです。
にんにくが災難や邪悪なものから身を守ってくれるという考え方は、世界中のいたるところで見られますが、にんにくとドラキュラを結び付けた考え方は、東ヨーロッパやバルカン諸国に限られているようです。
この地方は昔からにんにくの生産量も消費量も多く、食材や薬剤のみならずおまじないとしても用いられてきました。
にんにくの不思議なパワー
にんにくにまつわる不思議なパワーは色々と言い伝えられています。
・結婚前の若い男性はにんにくで身をさすり邪悪な心を追い払います。
・花嫁は髪ににんにくをつけて、男性同様に邪悪な心を追い払います。
・女性が分娩台に上がるときには枕元ににんにくをおいて置きます。
・赤ちゃんが母乳を飲まない時には、にんにくで唇をやさしくこするようにします。
・遺体を葬るときには棺桶の中ににんにくを入れて死後の災いを退けます。
今ではこういった民間伝承を受け継いでいる国は少ないようですが、東ヨーロッパの一部の地方では近年になってからも死者が甦って悪さをしないように、また心穏やかに永眠するようにとにんにくを入れて葬っていたそうです。
日本でも愛されているにんにくグッズ
にんにくは、魔除けやおまじないとしてだけでなく、無病息災や健康祈願、商売繁盛としてレストランなどのインテリアにも用いられています。
中国で魔除けとして飾られることが多い赤唐辛子や、平和の印と言われる月桂樹の葉などと一緒ににんにくを編み込んでリースにしたものや、ガーランドにアレンジメントされたものを見かけた方も多いと思います。陶器製のにんにくの壁飾りや、にんにくの形をした照明器具も販売されています。
ユニークなものでは、プラスチック製のにんにくと数珠をつないで作った、にんにくブレスレットやにんにくネックレスなども販売されています。ハロウィンなどのコスプレ用だけでなく、普段のアクセサリーとしても愛用されているようです。
強い匂いと抗菌作用を持つにんにくは、食べて薬となり、身に付けて魔物を封じ、飾って楽しむオールマイティの不思議な魅力を持つ野菜として、古代から現代に至っています。